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随筆 第一回 「 3.11 その時、東京スカイツリーは! 」

 2011年3月11日に、宮城県沖の海底を震源とするマグニチュード9.0の大規模な地震が発生し、東京都内でも震度5強の揺れを記録した。

 そのときの東京スカイツリーの建築現場は、ゲイン塔のリフトアップをおこなっている最中であり、高さは地上約620mに到達しようとしているところだった。

 「最悪なタイミングでの大地震でした。
 リフトアップしているゲイン塔が、揺れに対して一番余裕のない状態だったといってもいいかもしれません。最後から2番目のリフトアップをしている最中で、ゲイン塔は塔体の最上部に設置された転倒防止ジャッキだけで押さえられている状態でした。
 その状態でも転倒しないように計画されていたので心配はなかったのですが、それにしてもこのタイミングで来るか、という気持ちでした。」とは計画責任者のT氏の弁。

 現地では現場に設置された地震速報システムが地震の発生を検地したことから、リフトアップ作業は一時中断した状態だった。現地にいた監督員のS氏は、「リフトアップ作業を中断して、地震に備えていました。地震は縦揺れのあとに横揺れも続いて、非常に激しい揺れになりました。
 建築用の仮設機械はすべて安全性を検討した上での地震対策をしていましたが、その揺れが対策を上回るものなのかそうでないのかは、その段階では不明でした。

 とにかくその場は手近なものにつかまって揺れが収まるのを待ちました。」といっている。
 私は、地震時の記録動画を見たが、激しく揺れているカメラが揺れているものを撮影しているので、揺れ揺れの画像でしたが、特に、タワークレーンの吊りフックが上下にピョンピョン跳ねている動画が通常の揺れとは違った印象だったと記憶している。
 東京スカイツリーの地上部の主要な構造体は、次の三つの部位で組み立てられている。
①丸鋼管で網の目状に組みあがっている『塔体』。
②塔体の上に棒状に屹立している鋼製の『ゲイン塔』。(多くのアンテナ等が設置されている)
③塔体内部に第一展望台まで築造されている直径8mのコンクリート製の円中空柱の『心柱』。そして、ゲイン塔は、塔体に
深く差し込まれた状態で互いに固定されている。塔体と心柱の下部(125mまで)は、互いに鋼材により固定し、その上部(375mまで)は鉄骨造塔体と心柱をオイルダンパーで接続している。



 したがって、3.11の東日本大震災が発生した時点では、東京スカイツリーは建設途中であるため、ゲイン塔はリフトアップを中断し、転倒防止ジャッキで仮固定している状態。
また、コンクリート製の心柱は築造途中であるため、本来なら制振機能を発揮するはずの制振システムのオイルダンパーは一か所も取付けられていない状態だった。

 施工にあたって、高さが高くなるにつれてスカイツリーの揺れ方の固有周期が変わること、制振システムの『心柱』がない状態もあることなどから建設段階を10ステップに分けて、どの段階において地震が発生しても耐えられるように解析を行った。また、技術者たちは、塔本体に関する技術検討だけでなく、仮設機械であるタワークレーンについても、最上部に設置されたタワークレーンがマストを最大に伸ばした状態で、地震波が到達した場合を想定し、検討を重ねた。
その結果、マストの外寸法はそのままで、四隅の柱を太くするなど、マスト内部を構成する鋼材数を増し、強度をアップさせた。つまり、技術者たちは「法令で定められた以上の対策」が必要と判断したのである。さらにマストと塔体を結合する制振オイルダンパーまでが設置された。



 安全に対する配慮はそれだけではない。現場では、耐震性能と安全性能についての教育を徹底して、シミュミーションを繰り返していた。「どの段階で地震にあおうが大丈夫な確認をしていましたし、クレーンなどの仮設設備にも対策をとっていましたので、大きなダメージがないだろうことは、ある程度分かっていました」と、担当技術者は語っている。つまり、すべては「想定内」だったのだ。

「人事を尽くし、天命を待つ」という格言があるが、東京スカイツリーの建設に当たっては、計画段階で人事を尽くし、実行段階では愚直なまでに各種教育を徹底し、日常の点検を怠らなかった。計画時点で構造規格や設計基準以内であればよしとし、不測の事態が発生した際には「想定外」でしたと言い訳に走る技術者が見受けられる昨今には、東京スカイツリーの建設に関係した技術者たちの行動は一服の清涼剤であり、モノづくり日本の真骨頂を発揮したものといえる。

参考資料 「東京スカイツリー~世界一を創ったプロフェッショナル」NHK出版編 2012 写真―1 制振ダンパー



技術士(建設部門) 坂本 良髙


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