第十二回 粋な「しまがけ」−茅


 この岡本家住宅は栃木県の宇都宮市北方10kmのところにある。
 重文指定で19世紀前半に建てられたと推定されている。
 関東の民家の大きな特徴は、曲がりくねった梁をことさら探しだして、巧みに組み合わせた架構にある。
 これを「梁算段」といって、曲がった梁材を山から切り出す木挽きと、それを狙いどおりに、見事に納める大工との合作で見せ場を作り出している。
 この「梁算段」は次第にエスカレートして梁の上下の曲がりだけで満足しなくなり、水平方向にも曲がった、奇木、変木のたぐいに近い木を探し出してきて使っている。
 よくここまでやるなと、ただ恐れ入るのみである。
 江戸の美学に「粋(いき)」があるが、ここではいきいきでも、関東人の上方には負けられないと言う「意気地」の「粋」を感じる。

 この民家も関東らしい梁組は見られるが、派手な梁組を見慣れた目にはおとなしく見えた。
 この民家の特徴は「梁算段」ではなく「しまがけ」とよばれる軒づけにある。
 この「しまがけ」は栃木県南部から茨城県、千葉県などでおこなわれていたそうである。
 一般的には、稲わら、新茅と古茅などを重ねて縞模様をつくっている。
 この民家は縞が八本ある。
 ここでは新茅と古茅の二種類を使っていた。
 軒はせがい造りで高く、軒下から見上げると縞模様が縦縞に見えて、江戸の粋な縦縞の着物の模様を連想させる。
 江戸の「粋」の美学の影響があったのだろうか。
 桧皮や竹等を使ったもっと粋な感じの「しまがけ」もあるが主役は茅である。
 民家を支えた木ではなくこの場合は草であるが、この茅葺きの大きく包み込む柔らかさ、温かみこそ民家の美の大きな要素をしめている。
 瓦や金属板ではとうてい表現できない美しさがある。
 その茅葺き屋根の表現の一つの到達点がこの「しまがけ」である。
 しかしながら本家本元の江戸には「しまがけ」の表現はなかったようなので、江戸っ子には「野暮」に見えたのだろうか。

(株)京都建築事務所 代表取締役専務 小林一彦

初出 (株)京都建築事務所 機関誌「とれみ」Vol13




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