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この秋に友人と3人で、短い、イングランド旅行をした。 イングランドには、山らしい山はない。 林はあるが鬱蒼たる森は見なかった。 しかし、かっては森の国だった。 ロビン・フッドの活躍したシャーウッドの森は、リンゴの木だけではなくさまざまな広葉樹の原生林が生い茂り、人を容易に寄せ付けない深い森であった。 神と英雄の住み家は、森こそふさわしい。 かっての森の国イングランドの木造の住み家はクラックとハーフ・ティンバーで出来ている。 ヨーロッパ大陸で見られる校倉造り(ログハウス)はない。 針葉樹がないせいなのか理由は定かでない。 今回の旅行ではクラックは見る機会がなかった。 ハーフ・ティンバー・スタイルは、行く先々で新旧取り混ぜて数多く見ることが出来た。 その木材の代表はオーク(ナラ)である。 壁に細かいピッチで入った柱や間柱、梁、斜めやコーナーの四分の一円の筋かいなどの黒いフレームと、その間の壁は漆喰が塗られている。 黒と白の様式(ブラック・アンド・ホワイト・スタイル)と呼ばれている。 部材は一つ一つが微妙に大きさが違う。 よく見ると曲ったり、反ったりしている。 不揃いであるが、うまくバランスを取っている。 加工した大工の手を感じさせるやわらかい線がその部材に息づいている。 日本にも桂離宮に代表される黒と白の様式がある。 柱や梁の木部を露出させた真壁造りで、白い漆喰の壁との待避の表現は同じである。 日本の場合は杉や檜の針葉樹なので、直線的で簡素な日本的な美しさの表現になっている。 イングランドのハーフ・ティンバーはいわばフリーハンドの線のもつやわらかさ、あたたかみに満ちている。 日本でもハーフ・ティンバーに憧れてデザインする人は多い。 しかし針葉樹を使ってやると、その雰囲気になりにくい。 同工異曲いうか日本の真壁造りまがいに陥りやすい。 ![]() 挿し絵はイングランド南東部エセックス州の小さなアールズコルン村のコープ・ストアーの内部である。 チューダー朝1500年頃の建物の小屋組である。 A型の叉首構造はヨーッロッパや日本の民家に見られる構法である。 Aを構成する上部の三角の中に両妻を繋ぐ梁が通っているのはミステリアスである。 叉首構造には、普通繋ぐ梁は存在しない。 後から三角の中に入れるのは不可能である。 A型の小屋組は地上で組立て、建て起こすので、最初にその中を通すのもやりにくそうである。 なぜそうしたのかナゾは深まるばかりである。 外部は改修されているが、内部の小屋組は店舗の一部として大切に保存され、インテリアの一部として活用されている。 イングランドのオーク(ナラ)は日本のカシワに似ている。 大きく枝葉を広げた樹形は人を包み込む大らかな雰囲気がある。 オークはタンニンを多く含み、それが防腐剤ともなり、青みを帯びた黒い色となる。 虎斑(とらふ)の美しい紋様がこの材の特徴で、ヨーロッパの人達に尊重される理由になっている。 日本人は檜に対して信仰にも似た愛着を持っているが、彼らはオークを「森の王」と呼び、オークに対する敬意とこだわりはそれ以上かも知れない。 (株)京都建築事務所 代表取締役専務 小林一彦
初出 (株)京都建築事務所 機関誌「とれみ」Vol10 |