(18)神木・蒲生のクス



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  蒲生町は鹿児島県の中央部に位置する小さな町である。今から885年前、保安4年(1123年)2月21日、蒲生院の総領職であった蒲生上総介舜清が、豊前国宇佐八幡神宮を勧請し、 この地に正八幡若宮(蒲生八幡神社)を創建した。そのときすでに「蒲生のクス」は神木として祀られたとわれている。
  このクスは、大正11年に国天然記念物に、昭和27年に国特別天然記念物に指定されており、全国巨木ベスト10のベストワンである。幹回りは24.2mで、早くに天然記念物になったのは、年代の資料の確実性とその大きさによるものであろう。
  全国の巨木ベスト10の9つが樹種はクスで、地域別では九州が8つを占めている。
  蒲生のクスはいわれも姿も神木中の神木であるが注連縄はない。サインは無用なのであろうか。神木より天然記念物のほうに重きを置いているのか。周囲はムクロ樹、クス、銀杏などの大木に囲まれて正に鎮守の森を形成している。
  根回りは苔や蔦、上部は蔦や羊歯、枝分れの窪みには、宿り木としてウルシの潅木が生い茂っている。クスノキから樟脳を取り出し、防虫剤などとして用いるようになったのは江戸時代で、薩摩藩が最初だと言われている。 クスノキは古代には刳船や仏像の一本造りの材料だった。何よりその大きさが選定の第一条件だったのだろう。
  巨像の脚が何本も地面にめり込んで巨体を支えているかに見える。クスの育つ環境に恵まれ、さらにこれまで樹木の保護事業が何回も施されこともあいまって、老樹中の老樹であろうに、至って健康体に見える。 奈良の春日大社の大楠の「矢尽き刀折れなお生きている」といった迫力とは対象的である。推定樹齢は1500年とあるが、どこまでも生き続けるのではないかと思わせる。
小林一彦建築設計事務所 小林一彦