(21)参道の杉



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  杉は幹が通直であることにより「直木」または「すくすく立つ木」の意味といわれ、 まっすぐに良く伸びる特性がある。北は北海道、南は屋久島まで杉は分布している。 谷間に杉、中腹にヒノキ、峯にアカマツが古来日本林業の定石といわれていたそうだが、今日里山は谷も中腹も場合によっては峯までも杉で覆われている。 スギは材質的にはヒノキに劣るが成長が早く有用な木材資源である。割り箸、桶、樽、船、赤杉や北山丸太などの数奇屋の材料、足場丸太などあらゆる所に使われて来た、 日本の代表的な木材であった。その資源は膨大なのに、今日は外材に押され、山に眠っている。
  杉の樹冠は他の針葉樹と同様、先端の尖ったピラミッド形をしている。林冠はノコギリのようにキザキザしているが、小枝ごとに葉がまとまって丸くなっているので、全体はやさしい感じの樹形である。
  日本の社寺には杉の参道を奥へ奥へと上がって行く形式が圧倒的に多い。北は北海道神宮から南は霧島神宮まで、有名な、身延、日光東照宮,熊野古道の参道など無数に存在している。 杉の参道は宗教的な雰囲気を造り出す最も日本的な舞台装置である。このスケッチは長野の戸隠神社の参道である。巨大な杉の列柱が間隔を開けず、狭い参道を覆っている。狭い参道に短い間隔でよくここまで巨大に育ったものだ。
  杉の奥は栃やナラ、ブナの落葉広葉樹の林である。杉だけならもっと暗くなるところだが、背後が落葉樹なので明るく森の奥まで見通すことが出来る。西日本の暗い常緑樹で覆われた鎮守の森とは雰囲気が違う。 何百年かの樹齢は幹の大きさと、露出した根回りで計ることが出来る。スギの顔は根にありで、数百年間の地形の変化に追随して行くうちに自然に豊かな造形が出来上がっている。
小林一彦建築設計事務所 小林一彦