(24)五箇山の赤松



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  富山の庄川上流の白川郷や五箇山は合掌造りの集落で世界遺産に指定されている。 合掌造りの住まいは3階建て以上の、養蚕作業の空間を取り込んだ併用住宅である。庄川下流域には栃波平野が広がり、その水田の中に散居集落と呼ばれている農家が点在している。 農家の敷地には母屋や作業小屋、蔵などが立ち並び、周囲は杉の林に囲まれて小さな鎮守の森が散居しているといった景観である。
  この地方は浄土真宗が盛んなところで、戦国時代の「一向一揆」は歴史上有名である。一般の住宅にお坊さん専用の玄関があり、仏間も立派である。 明治政府の「廃仏毀釈」に対してとりわけ強い抵抗があって、この地方では頓挫している。信仰心の強さは歴史的な経緯からも、住宅の造りからも伺える。この地方は住宅や寺だけでなく神社も立派である。 日本は明治までは神仏習合の国であり、神と仏を差別していなかった。その伝統はこの地には健在で、寺だけでなく、神社も大事にされている。このように立派な建造物が多いのは、背景に土地の豊かさがあったのであろう。 日本の文化的な中心である京都に比較的近く、高度な文化や大工技術等の導入がしやすかったことも起因している。
  植栽は寺に松、神社、住宅に杉が多かった。寺に松、神社に杉は日本の植栽の定石である。しかし農家の杉は珍しい。このスケッチは五箇山合掌造りの民家の中で最大規模の岩瀬家の隣にある明徳寺の山門と鍾堂の間に植えられた赤松である。 木を建造物に懸ける手法は2つの建物の間が狭く出来ないので、枝を払って直立させているため赤松は窮屈そうで、松らしい枝垂れた樹形にはなっていない。
小林一彦建築設計事務所 小林一彦