(3) イギリスの橋がけの松


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 昨年の9月、イギリス・コッツウオルズ地方を旅行した。
 英国の田園風景の人気スポットである。
 あまりに人気があるので「ほんとかな」と少し懐疑的な気持ちで出かけたが、素晴らしいところだった。
 ハニー色の石積みで統一された街並もいいが、うねりのある丘陵あり小川の流れる水辺ありで変化に富んだ風景もよかった。
 イギリスを旅行していると、川が少ない、車や電車で走っていてもめったに橋に出会うことはない。
 たまに出会う川は小さく、水深が浅く、護岸も人を拒絶するようなコンクリートなどでなく、土や石積で親しみやすい。
 水辺の風景で英国のガイドブックに「リトル・ベニス」と紹介されているこの地方のボートン・オンザ・ウオーターという小さ町は、ベニスとはまったく違った緑の多い水辺の風景が美しいところである。
 この川幅10mほどの小川に架かるハニー色の石橋に、水辺の赤松が橋がけの松という感じで、枝垂れかかっている。
 日本には門に樹木の枝を枝垂れかけるのが造園の定石になっている。
 その樹木の種類はいろいろあるが松が代表選手であろう。
 ここはイギリス、まさかそんな定石はあるまい。
 偶然の仕業に違いない。
 松はスコットランドでは見られるそうだが、イングランドでは珍しい。
 イギリス人はこの風景をどのように見ているのだろうか。
 日本には枝垂れの美学がある。
 特に枝垂れ桜は有名である。
 枝垂れの美学は日本だけのものだろうか、中国趣味、中国の美学に影響されたのかもしれない。
 枝垂れは片方だけなので、シンメトリーの美学の西洋にはなじまない。
 従ってこの風景を切り取って写真や絵にする人はいないのかもしれない。
 風景はありのまま見るのでなく、見る人の美意識で選択して見ている。中国人はこの風景に注目するのだろうか。


(株)京都建築事務所 代表取締役専務 小林一彦